メタアグリゲートって何?

 タンパク質は立体構造をとることによって生物学的な機能を示しますが、誤った立体構造をとると細胞内外で蓄積して不溶物(アミロイド凝集体)を形成し、様々な病気を引き起こします。1854年、アミロイドの発見はある一つの“誤解”から始まったとされています(諸説あり)。ドイツ人医師ウィルヒョーらは、ヒトの組織から取り出した沈着物がヨウ素デンプン反応を示したことから多糖類と考え、デンプンを意味するアミロイドと命名しました。現在では、このデンプンはアミロイドに付着していた物質だったとされ、アミロイドは凝集性の線維状タンパク質であると訂正されています。これまで50種以上のアミロイドが報告されており、特に脳に蓄積することで引き起こされる神経変性疾患はいずれも難治性であることから、超高齢社会の大きな課題になっています。

 これはある観光地のある日の写真ですが、とても「混雑」しているように見えます。しかし、よく見ると家族連れ、修学旅行生、外国人、カップルなどそれぞれ属性が異なることから、正しくは「混淆」状態にあると言えます。正確には、「混雑」と「混淆」は意味が異なり、秩序がない混雑に対して、混淆には何らかの規則性が存在することを意味しています。この現象をアミロイドーシスに置き換えてみました。これまで試験管内ではアミロイド凝集は単一のアグリゲート形成によって説明されていましたが、in cellでは生体分子と共凝集したメタステーブルな混淆状態を、俯瞰的に眺めるメタ視野が今後のアミロイド疾患の統合理解に不可欠ではないかと考えました。そこで「メタアグリゲート」研究領域を立ち上げ、小目標としては共局在や生体分子凝縮による異種アミロイド、核酸、タンパク質とのメタアグリゲートの構造および動態を1分子レベルで明らかにします。大目標としては、生体物質3つの観点から新たな創薬リードの開発を目指します。

 これまでアミロイド解析法と言えば、福井大学の内木宏延博士(本領域アドバイザー)らが1980年代に開発したチオフラビンが世界的スタンダードでした。しかし、メタアグリゲートを特異的に解析(可視化)する手段がないのが現状の課題ですので、まず解析法から課題解決に取り組みます。高速原子間力顕微鏡(高速AFM)は1分子の構造と動態を同時に可視化できる強力な解析ツールです。本領域では、高速AFMを用いて、生体環境下でメタアグリゲートがどのような分子挙動を示すのか?(XY方向の伸展やZ方向の起伏形成等)という次代の研究課題にたどり着きました。高速AFM研究はわが国が世界を先導している分野の一つであり、今後もさらに研究速度を加速させて世界をリードし続けます。単一アミロイドからメタアグリゲートへと解析対象を拡大することは、様々な研究領域での研究フェーズの変革を訴求するものであり、新しい融合分野の創成などが期待されます。

計画研究班

A01:【アミロイドと異種アミロイド】混合型認知症におけるメタアグリゲート形成と毒性発現

小野 賢二郎

金沢大学医薬保健研究域医学系・脳神経内科学・教授

A02:【アミロイドと核酸高次構造】RNA相転移によるメタアグリゲート形成と伝播

矢吹 悌

熊本大学・発生医学研究所・助教

A03:【アミロイドとタンパク質】分子進化法によるメタアグリゲートの網羅的探索と検証

村上 一馬

京都大学・農学研究科・准教授

B01:高速原子間力顕微鏡を用いたナノ顕微観察の対象のバリアフリー化と応用

中山 隆宏

金沢大学・ナノ生命科学研究所・准教授